2010年7月19日月曜日

「河童の秘薬」 猿ヶ京物語

 相俣に小野屋と言う家有り。或る日その家の老婆、赤谷川の淵で小豆をとぎけるに河童の子しょうぎに引っかかりぬ。老婆、近頃馬の尻尾をひっぱり、子供の足をひっぱるなどの悪戯をしかけたるはこの河童とおぼえ、折檻せんとてこれを捕らえリ。河童、老婆に許しを請うて曰く、何にでも効く塗り薬の製法をば授けるに、我を放し給えと。老婆河童の秘薬の効能を知りたるに、河童よりその製法を聞きけり。河童去り際に、この製法誰にも伝授することなかれと言い残せり。老婆これを守れリ。爾来、老婆の塗り薬の効能、近隣に聞こえリ。されど老婆河童との約定守りたるに、その死後、その塗り薬の製法をば途絶えけり。