2010年6月20日日曜日

静かなる旅をゆきつつ

静かなる旅をゆきつつ (序にかえて) 若山牧水 






兎に角に自分はいま旅に出て居る。



何処へでもいい、兎に角に行け。



眼を開くな、眼を冥ぢよ。



そうして思う存分静かに静かにその心を遊ばせよ。



斯う思い続けていると、



汽車は誠に心地よくわが身体を揺って、



眠れ、眠れ、というがごとく静かに静かに走って行く!

2010年6月19日土曜日

若山牧水 みなかみへ

山かげの温泉の小屋の破れたれば落葉散り浮くそのぬるき湯に




夜をこめてこがらし荒び岩かげの温泉の湯槽今朝ぬるみたり



大渦のうづまきあがり音もなしうねりなだれて岩を掩へども



木を流すわかき男の濡れそぼち大き岩かげゆ這ひあがり来ぬ



月かげにわづかに見ゆる湯のなかのこの二三人ものいはぬなり



いねがたみ夜半ただひとり起きいでて湯に降り来れば月の射しをり



月夜にてこよひありけり灯ともさぬ湯ぶねに居りて見れば望の夜



温泉小屋壁しなければ巻きあがる湯気にこもりて冬の月射す



あばら屋のおそろしければ提灯をともしてぞ入る夜半のいで湯に



ともしおく提灯の灯の湯気にこもり夜半のいで湯に湯のわく聞ゆ



軒端なる湯気のしたびに月冴えて向つ峰の雪あらはにぞ見ゆ

2010年6月18日金曜日

蛍の歌

もの思へば 沢の螢もわが身より あくがれ出づる玉かとぞ見る. 和泉式部




わがいのち闇のそこひに濡れ濡れて蛍のごとく匂ふかなしさ 若山牧水



身にしみて物を思へと夏の夜の蛍ほのかに青引きてとぶ 与謝野晶子



このほたる 田ごとの月と くらべ見ん 芭蕉



かきつばた生ふる澤べに飛ぶ蛍かずこそまされ秋やちかけむ 源実朝