山かげの温泉の小屋の破れたれば落葉散り浮くそのぬるき湯に
夜をこめてこがらし荒び岩かげの温泉の湯槽今朝ぬるみたり
大渦のうづまきあがり音もなしうねりなだれて岩を掩へども
木を流すわかき男の濡れそぼち大き岩かげゆ這ひあがり来ぬ
月かげにわづかに見ゆる湯のなかのこの二三人ものいはぬなり
いねがたみ夜半ただひとり起きいでて湯に降り来れば月の射しをり
月夜にてこよひありけり灯ともさぬ湯ぶねに居りて見れば望の夜
温泉小屋壁しなければ巻きあがる湯気にこもりて冬の月射す
あばら屋のおそろしければ提灯をともしてぞ入る夜半のいで湯に
ともしおく提灯の灯の湯気にこもり夜半のいで湯に湯のわく聞ゆ
軒端なる湯気のしたびに月冴えて向つ峰の雪あらはにぞ見ゆ